公益財団法人 とよなか国際交流協会

なんぢゃ・カンヂャ・言わせてもらえば

第77回 講演『サッカーと人権』を聞いて

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

 6月20日、大阪府在日外国人教育研究協議会、第23回研究集会、南河内大会全体会で陣野俊史さんの記念講演、「サッカーと人権~サッカーはいかに差別と闘ってきたか~」を聞きました。昨年2014年3月、Jリーグでの「JAPANESE ONLY」と書かれた横断幕事件を受け、「サッカーと人種差別」(文芸春秋)を出版し、ヨーロッパサッカーにおける人種差別と選手たちの闘いを取り上げ、差別をなくすために何が必要なのかを問いかける活動や授業をされています。
 最初の映像で2015年2月、パリの地下鉄での事件を見ました。イングランドのクラブ、チェルシーのサポーターたちが、「私たちは人種差別主義者」と歌いながら、アフリカ系の男性が地下鉄に乗り込もうとするのを何度も、外へ押しやるという暴力行為が映し出されました。陣野さんは、このグループは毎日のようにどこかで集まって、差別的な歌を歌う練習をしていると思っただけで、恐ろしくなると言っていました。試合中、バナナを投げ入れられた黒人選手たちが、独自のユーモアで抗議する姿も報告されていました。怒りだけでは、何も解決しない。卑劣な行為を笑うことで何のダメージにもならないと知らせたいのだと思いますが、そこまで行動できるようなるにはかなりの経験と理性が必要だなと思います。
 フランス代表の選手の中には、マルチニックやアルジェリアなど旧植民地国出身の移民選手がたくさんいます。2006年のワールドカップで話題になった、「頭突き事件」のジダン選手のように、最近はフランス生まれの移民二世たちが活躍しているのですが、このことを喜ばないフランス人たちは試合中だけでなく、選手の家にまで嫌がらせをするそうです。元フランス代表のリリアン・テュラム選手は引退後、人権活動家として活躍し、「生まれたときはレイシストではない。レイシストになるのだ」と教育の大切さを訴え、基金を設立しています。お話の全てにインパクトがあり、ひどい人種差別の場面が目に焼きつきました。人種差別は経済格差問題と密接に繋がっています。「今後、日本も、労働力不足を補うために、外国からの移民を奨励する政策を押し進めると、日本のサッカー界にもフランスと同じようなことが形を変えて派生するだろう。そのとき、人種差別主義者にならない準備が必要だ」と警鐘を鳴らす陣野さんです。
 2011年、日本代表のゴールキーパー、川島選手が「かわしま、ふくしま」というチャント(歌)を歌われたことに抗議し、試合が中断されました。ヨーロッパで差別発言を受ける日本代表を見て、日本に住む誰もが怒りを持ちます。日本で、「JAPANESE  ONLY」と掲げることの罪深さを考えたいと思います。
 いまから68年前の1947年4月15日、メジャーリーグ史上初の黒人選手、ジャッキー・ロビンソンがデビューしました。水のみ場もトイレもレストランも野球場も劇場も「カラード」と「ホワイト」に分離されていた時代です。2013年に公開された映画「42(背番号)」を観ると、脅迫と悪質な嫌がらせの中で、怒りを抑え、野球に向き合うロビンソンの姿に心が震えました。たった一人の黒人選手に注がれる、熱い眼差しと声援の中に子どもたちがいます。この子たちの未来を拓いたジャッキー・ロビンソンの願いは大好きな野球をしたいという、強い思いでした。
 人種や民族、性別や出自など、本人がどうすることもできない理由で、排除される社会を変えていった人たちの存在を知ると、勇気が湧いてきます。差別に出会ったとき、どんな闘い方があるのか、学び、知恵を出し合い、伝えていきたいと思います。

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

1957年大阪生まれ兵庫育ちの在日朝鮮人(朝鮮人は民族の総称)。
在日女性の集まり「ミリネ」(朝鮮人従軍慰安婦問題を考える会)代表。
「家族写真をめぐる私たちの歴史-在日朝鮮人、被差別部落、アイヌ、沖縄、外国人女性」責任編集。2016年、御茶の水書房刊。
小学校講師。
家族写真を使って、個人のルーツや歴史を知り合うワークを開催している。