公益財団法人 とよなか国際交流協会

なんぢゃ・カンヂャ・言わせてもらえば

第86回 「パレードへようこそ」連帯こそが力なり

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

『パレードへようこそ』(原題: Pride)は、2014年にイギリスで製作された映画です。1984年、サッチャー首相は赤字の炭鉱を閉鎖するという計画を出します。イギリスは産業革命を達成した先駆けの国です。工業化による大量生産の背景には、17世紀初頭の大航海時代に占領した、インドをはじめとする植民地での綿や紅茶などの豊かな資源と市場がありました。
その繁栄は第一次世界大戦まで続きます。第二次世界大戦後は労働党政権の「ゆりかごから墓場まで」というスローガン通り、福祉国家となりました。多くの企業が国営化されており、競争のない時代が40年近く続き、経済的な低迷を迎えます。サッチャー首相は1980年代に企業の民営化を図り経済成長を促しましたが、一方で大量の失業者を生み出しました。
 炭鉱閉鎖という危機に労働者たちが黙っているはずがありません。政府の赤字炭鉱閉鎖計画に反対し、全国炭坑夫組合(NUM)が、ストに突入します。レズビアンやゲイの人たちが炭鉱労働者への警察の凄まじい弾圧を知り、支援活動を開始します。街頭で集めたお金を送ろうとしますが、応えてくれたのはウェールズの田舎の小さな炭鉱町でした。どこの炭鉱も偏見から、支援を受けようとはしないのです。
 支援金を受け取ると返事した炭鉱も実は、電話を受けた人の勘違いから承諾したことが後で判明しますが、労働組合の代表はロンドンで活動するレズビアンやゲイの人たちと話をし、町に来てもらうことにします。歓迎会が準備されますが、役員の反応は思わしくありません。「病気がうつる」とか、「気持ちわるい」とか言いたい放題です。家族や知人、友人たちの差別的な態度に、ショックを受ける女性たちもいますが少数です。歓迎会当日、レズビアンやゲイの支援者を見て、席を立つ人、悪態をつく人、怖がる人と散々な様相となりますが、一緒にお酒を飲む人やダンスを踊る人も出てきました。だんだん、打ち解けはじめ、交流する姿があちこちでみられるようになります。労働者が移動するためのバスが故障したことを知り、さらなる支援が必要だと、ロンドンに戻ったレズビアンやゲイの人たちを待っていたのは、悪意を持った新聞社の記事でした。情報提供者は考えを変えようとしない、炭鉱労働者の家族でした。ついには労働組合の中央本部からも、世論を考えて支援を受けないようにという指令まで届きます。
 嫌がらせにもめげず、街頭で資金集めをするゲイの人が襲われる事件が起こり、炭鉱労働組合のメンバーは、家族のように心配します。そして、組合中央本部の指令に承服せず、支援を受けることを決議するのでした。
 1985年に開催された「レズビアン&ゲイプライド」にバスを連ねて、たくさんの炭鉱労働組合のメンバーが応援に駆けつけました。パレードの先頭には彼らの姿があり、青空に各地の組合の旗が力強くはためいています。ストライキの翌年の労働党大会で、規約に性的マイノリティーの人たちの権利を盛り込んだ議案が可決されました。全会一致の支持をしたのが全国炭鉱労働組合でした。実話に基づいた映画は、同じ立場の人同士が協力しあうだけでなく、苦境に立つ異なる立場の人たちを支援し、連帯することの尊さを気づかせてくれます。
日本でも教科書無償の闘いや労働運動など、市民的権利を持たない在日朝鮮人がたくさん参加し、共に闘ったという歴史があります。しんどい立場だからこそ、人を思いやり立ち上がる。そんな姿に触れると、生きる勇気が生まれます。連帯こそが力なり。

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

1957年大阪生まれ兵庫育ちの在日朝鮮人(朝鮮人は民族の総称)。
在日女性の集まり「ミリネ」(朝鮮人従軍慰安婦問題を考える会)代表。
「家族写真をめぐる私たちの歴史-在日朝鮮人、被差別部落、アイヌ、沖縄、外国人女性」責任編集。2016年、御茶の水書房刊。
小学校講師。
家族写真を使って、個人のルーツや歴史を知り合うワークを開催している。