公益財団法人 とよなか国際交流協会

外国人相談あれこれ

第61回  相談におけるダイバーシティとインクルージョン

吉嶋かおり(よしじまかおり)

 差別や偏見がある社会の中で生まれ、生活していると、多くの人にとって差別や偏見は「普通」の状態なので、意識されにくくなります。これは差別されている側にも起こります。「普通」からはずれた言動をすることが、その社会でどのようにみなされるかを学びながら大人になりますので、そのリスクへの不安や恥が内面化され、その結果、より消極的に、慎重に行動するようになります。そのような「初期状態」のなかでは、自分の問題や苦しみを自分のせいだと感じたり、個人的なことだと考えたりします。
 アメリカでの、アフリカ系アメリカ人に対する暴力や構造的な人種差別の撤廃を訴えるBLM(Black Lives Matter )運動から、社会の中で力を持つ側のほうが、人権問題への取り組みをより積極的に示していく必要性が広がってきました。私は欧米の団体の研修を時々受けるのですが、ここ1~2年、研修の始めに、ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包摂)が提示されるようになりました。主催者側が、研修においてこれらを重視していること、研修における差別や偏見を是正していくことなどが話されます。また主催者側は、マイノリティの参加者に対し、より積極的に発言するよう励まします。
 主催者のこのような積極的な姿勢を何度か経験していくなかで、私自身が少しずつ変わっていきました。欧米の団体が主催の研修では、私は「よそ者」で、マイノリティで、言語的にも不利なので、いつも遠慮していましたし、それが当然のように思っていました。女性として生きてきたことも重なり、遠慮の刷り込みがどれほど深かったのかということに気づかされた出来事が去年ありました。心の奥底に沈んで意識されずにいた「引っかかった感じ」の出来事が、突然思い返されたのです。それは、「私たちは聞きます、聞きたいです、あなたの感覚は大切です」というメッセージがあって初めて顔を出したものでした。あれは差別行為だったのだとようやく意識できたのです。
 社会には、あからさまな暴言や排斥よりも、このような、わかりにくいけれど、でも実は差別や偏見に基づいた言動や制度のほうが多くあります。行う人は、知らないし、気づかないし、わからない。あまりに「普通」のことであり、親切や丁寧さから行われていたりもします。それは私も含みます。
 在住外国人との共生を掲げるとよなか国際交流協会においては、このテーマはとても重要だと私は考えます。日本人で、日本語を話し、支援を提供する側である私は、あきらかに「力」を持つ側です。相談を求めてくる人、センターに来館する人の声に耳を傾け、私自身を変化させることを恐れないために、何をしていく必要があるか。人権保障のためにフォーカスすべきは誰であり、何であるのか。相談者が安心して、本当の思いや考えを出せるためにどうすればよいか。
 こういうことを、改めてしっかりと考えていきたいし、実行していきたいと思っています。

(2023年2月号より)

吉嶋かおり(よしじまかおり)

外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。