公益財団法人 とよなか国際交流協会

外国人相談あれこれ

第37回 就労におけるトラフィッキング

吉嶋かおり(よしじま かおり)

 人身売買や強制労働というのは、戦時中に、地方や植民地支配下の国々から集められ、過酷な労働を強いられたことだと考えるでしょうか。あるいは、遠く外国で起こっていることのように感じるかもしれません。しかし実は、とても身近なところで起こっていることなのです。
 6月、米国務省が、世界各国の人身売買の実態をまとめた年次報告書を公表しました。それによると、日本では、外国人労働者が強制労働の被害者になりやすい実態があり、日本政府は、人身売買撲滅のための最低基準を十分に満たしていないと指摘しています。技能実習制度で来日する外国人の過酷な労働状況は、時折ニュースで目にしていると思います。
 看護や介護業界は慢性的な人手不足で、それを補う目的もあり、2008年から、インドネシア(続いてフィリピン、ベトナム)から看護師、介護士候補者の受け入れが始まりました。来日した候補生は、日本語や専門領域について、一定の研修を受けることを義務付けられており、当センターにも、所属する介護施設長が率先して当協会事業への参加を勧め、日本語学習に参加したり、同国人の仲間と歓談したりしていました。彼女らは、資格合格を目指し、国と施設から大きなサポートを受けながら働いていました。
 一方で、最近、「人身売買・強制労働(トラフィッキング)」で介護に従事している外国人の実態があります。
Aさんは日本人男性の子どもを母国で生みましたが、夫が認知しなかったり出生届を出していなかったために、子どもたちは日本国籍を持っていませんでした。このような子どもたちは数多くおり、フィリピンではJFC=ジャパニーズ・フィリピノ・チルドレンと呼ばれています。日本人男性の無責任かつ身勝手な行動の結果起こっていることです。彼女らは、経済的・制度的に、来日することはほぼ不可能となっています。業者はそこに目をつけ、日本国籍が取得できる、日本で働けると持ちかけ、渡航費用や手数料を貸し付け、来日させます。この方法であれば、先の「候補生」が越えなければならないハードル(母国で有資格など)が必要ないからです。来日後は、その労働現場や住居から離れることができないような労働条件を押し付け、加えて借金の返済で縛り、働かせているのです。これはまさに強制労働です。
 Aさんの現場は老人ホームでしたが、おむつで過ごす人が何人もいる施設に関わらず、一人で夜勤をこなさなければなりませんでした。Aさんは非常に真面目に働いていましたが、決して普通にこなせる状況ではありません。
 Aさんのようにして来日し、介護現場で働く人々が急速に増えていることがわかっています。先に述べたような「候補生」として就労する人々とは、大きく異なる労働状況です。日本の介護現場では、このような人々によっても支えられているのです。あなたの家族、あるいはあなた自身が、このような中で介護サービスを受けているかもしれません。
 これは法制度の盲点であり、外国人労働者たちにとって大きな問題ですが、安心・安全な高齢者サービスを受ける側にとっても問題ではないでしょうか。法制度の改善と対策を切に願います。

(2014年7月号より)

吉嶋かおり(よしじま かおり)

外国人のための多言語相談サービス相談員。臨床心理士。2006年から担当しています。
どんな相談があるの?相談って何してるの?という声にお応えできるよう、わかりやすくお伝えできればと思ってコラムを書いています。