公益財団法人 とよなか国際交流協会

リレーコラム(2015年度~)

2017年09月 少しだけ北の国から@福島~巨大な防波堤と、津波を免れた神社と祠~

辻明典(つじあきのり)

ここのところ、海を気軽に眺めることができなくなってしまいました。東日本大震災の復興工事と称して、巨大な防波堤が、海岸沿いに造られはじめたのです。きっと、津波を防ぐためなのでしょう。
 海が見えないだけではありません。防波堤の側に立っても、波の音も聴こえなければ、潮風を感じることもできません。海の存在が、急に遠くになってしまったかのような気分です。ところで、この防波堤の近くの集落を歩くと不思議な光景が立ち現れてきます。集落は壊滅状態で、ほとんどの家屋は流されてしまったのですが、神社や祠だけは津波を避けるかのようにやや小高い場所に立っていて、ほぼ無傷で残っているのです。それも、一つや二つではありませんでした。
 余りにも不思議なので図書館で郷土史等を調べてみたのですが、神社や祠が建立された時期は定かではないようでした。ただ、相当昔から建っていることだけは事実のようです。1000年ほど前にも巨大地震と津波がこの地を襲ったということですので、津波が届かなかったぎりぎりの場所に、警告のメッセージを込めて、神社や祠を建てたのかと思われます。
 神社や祠と防波堤を見比べていると、なんだか複雑な気分になってきます。どれほど高い防波堤を建てたとしても、津波が防げるとは思えません。でも、津波の被害を受けて、「もう海は見たくない」という人の気持ちもよくわかります。ただ、自然をコントロールできる、津波を押さえ込めると思っていると、いつかまた大きな悲劇がおこるような気もします。みなさんは、どう思われますか?

辻明典(つじあきのり)

協会事業(哲学カフェ、プロジェクト“さんかふぇ”等)に参加していた辻明典さんが、2013年度より故郷である福島県南相馬市に戻り、教員をしています。辻さんからの福島からの便りをどうぞ。