公益財団法人 とよなか国際交流協会

なんぢゃ・カンヂャ・言わせてもらえば

第101回 「あたりまえ」がくつがえされる実践

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

6月17日、大阪府在日外国人教育研究協議会第25回研究集会(北河内大会)が、守口チャンゴ教室による演奏と、門真市砂子小学校の陽光教室による中国の「舞獅子」のオープニングで開催されました。
 今大会で初お目見えとなる、「府外教」制作による在日外国人教育実践プラン集「ちがい ドキドキ 多文化共生ナビ」の紹介がありました。あいさつや食べ物だけでなく、外国にルーツを持つ仲間の存在を実感できるようになっています。例えば在日4世の人に「いつ日本にきたんですか?」とか、ベトナム人と名乗る人に「大丈夫よ!日本人にみえるから。」とか、「選挙にいかなあかんで!」と外国籍の人に言うとか、日常生活の中にある、無理解な言葉の事例集を見ると、体験したことのある私はうなずくばかりでした。
 このプラン集を監修した大阪大学の榎井縁さんのお話を聞きました。

―2016年になって、多文化共生のための公開シンポがあったり、「外国人の子ども白書」(明石書店)が出版されたりしている。その内容の8割近くが子ども支援に関することが扱われていて、支援が不十分な社会情勢を表している。文部科学省からも同年6月、学校における外国人児童生徒に対する教育支援の充実方策について出されていて、基本的な分析を含め、どんな支援が必要なのかが書かれてある。新しく日本に来た外国人が四半世紀の時間の中で、ますますその数が増えているということは、外国人に関わる人たちが、地域や学校で増えていることになる。外国にルーツのある子どもたちからの発信もあり、「ハーフ」「ダブル」「ミックス」と呼ばれるが、それは私が決めると宣言している。その子たちがヘイトクライムのターゲットにされる緊急さを、私たちは意識しているのだろうか。
 最近の外国人の在留権をみると、永住者が一番多くて、特別永住者が二番目、技能実習が三番目だ。地方都市では、一時期は日系人が多数を占めていたが、現在は技能実習が一番多い。238万2822人の外国籍住民の内、16万9198人が6歳から15歳で、その多くが家族滞在という、とても不安定な在留権で日本にいる。中国が69万人で一番多く、ベトナム、ネパールが増加していて、南米と西アジア、中東も増えてきている。これからは、国内情勢が不安定なイスラム圏の子どもたちが日本に来るだろう。現在、30人に一人の外国籍、外国につながる子どもたちが、クラス、学年に存在している。日本語指導が必要な子どもは過去最多だが、指導者がいないため、指導を受けられない。運よく日本語指導が受けられて、日本語が流暢になると、見分けがつかなくなり、多忙な教員に細やかな配慮は期待できない。また、差別を回避するために、自らを隠すという方法をとってしまう保護者から、触れないで、さわらないで、と拒絶されると、教員も保護者もルーツを明らかにすることが有益ではないという思い込みを持ってしまう。
 それでも、日本語がわからない保護者や子どものために、「先生が手書きのイラスト入りのメモをくれた」「担任が自分の国の文化に興味を示してくれた」など、ちょっとした配慮や働きかけで、子どもも保護者も喜ぶ姿をみることができるのだ。そんな関わりの中で、自分の「あたりまえ」がくつがえされ、大人も成長することができ、多様な世界(文化)の存在は単一的思考(価値観)を解放してくれる。
 例えば、伝統的な調味料、香辛料の分布をみると、「食」から人類の歴史がわかる。にんにくや胡椒など、国境を越えたにおいや、おろし文化、つぶし文化、を体験する授業など、興味をもって異なる文化、つながる文化を楽しむ。そして、差別は絶対に許さない。植民地主義、単一民族主義の根っこにある旧植民地出身者やアイヌ民族、沖縄への排除や差別を阻止していくという意識が大切だ。義務教育の義務がないと排除されている、不就学の外国籍の子どもたちの問題にも目をむけてほしい。教室だけの実践でなく、社会を変えることも今の私たちの責任だ。―

 説得力のある、胸のすくようなお話でした。榎井さんのような日本人の存在は私たちの宝です。

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

1957年大阪生まれ兵庫育ちの在日朝鮮人(朝鮮人は民族の総称)。
在日女性の集まり「ミリネ」(朝鮮人従軍慰安婦問題を考える会)代表。
「家族写真をめぐる私たちの歴史-在日朝鮮人、被差別部落、アイヌ、沖縄、外国人女性」責任編集。2016年、御茶の水書房刊。
小学校講師。
家族写真を使って、個人のルーツや歴史を知り合うワークを開催している。