公益財団法人 とよなか国際交流協会

なんぢゃ・カンヂャ・言わせてもらえば

第9回 チャンゴの修行は続きます

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

どこの国にも、昔から太鼓やドラがあります。朝鮮には長鼓と書いて、チャンゴと読む、打楽器があります。三十代から、チャンゴを習いはじめ、二十年になろうとしています。右と左の複雑なリズムがたたけるようになると、楽しくて、楽しくて、あきることがありませんでした。チャンゴを通じて、知り合ったり、友人になった人たちがたくさんいます。そんな友人たちと韓国に出かけ、廃校になった学校で、チャンゴ合宿をしたこともありました。真面目な若い師匠の指導を受け、朝起きてから、夜寝るまで、練習というより、修行のような三日間に、音を上げたのは言うまでもありません。子連れで、よくあんなことができたと、向こう見ずな行動力が、今となっては懐かしいです。
豊中で、チャンゴの教室を見つけ、通いはじめた頃、豊中第五中学にチャンゴクラブがあることを知りました。中学生たちがチャンゴをくくり付けて踊る、チャンゴチュムが素晴らしく、絶対、私も演奏できるようになりたいと、闘志を燃やしたものです。学校にチャンゴクラブがあると、「在日」の子どもたちにとっては、日常的に民族文化に触れる機会になります。また、周りの日本人の子どもたちが、朝鮮の文化を好きになってくれるきっかけにもなります。
教員免許を取得して、初めて勤務したのが川西市内の小学校です。すぐに、チャンゴクラブをつくる準備をしました。韓国旅行に行こうと、仲間を募り、買ったチャンゴを一緒に持ち帰ってもらいました。その後、少しずつ楽器を買いそろえ、衣装も作りました。小学生のチャンゴクラブは可愛くて、地域の人権文化祭や、保育所の納涼祭りなど、毎年、出演依頼を受け、夏や秋は大忙しでした。残念ながら転勤することになり、六年間の活動に終止符を打ちましたが、転任先の中学校にも卒業生がいて、チャンゴ同好会を作ることになりました。一年間しか勤務することができませんでしたが、文化祭での演奏は、チャンゴチュムと「扇の舞」をやりました。
先日、この中学校の人権講演に呼んでもらって、話と一緒にチャンゴをたたいたのですが、昨年まで、チャンゴ同好会が存在していたことを知りました。小学校のチャンゴクラブの後を引き継いで、地域のイベントにも出演してくれていたようで、設立から数えると、八年間も続いたということになります。寒い一日だったのですが、ほっこり暖まるような気持ちになりました。
もちろん、現在の勤務校でも、チャンゴクラブをつくって活動しています。今年は、四年生と五年生の一六人という大所帯です。先日、開催された音楽学習発表会では、チャンゴの演奏だけでなく、大きな波や、花を作って踊る、美しい「扇の舞」にも、大きな拍手をもらい、みんなとても喜んでいました。母国語教室の子どもたちも、フィリピンの民族衣装を着て、バンブーダンスを披露し、民族色豊かなオープニングとなりました。保護者だけでなく、地域の方たちからも、素晴らしいとほめてもらって、また、練習に熱が入りそうです。
そう言えば、「私のなりたいものリスト」の中に、旅芸人というのがありました。日本全国の学校を巡り、「在日」の仲間が元気になれる公演をしたいという夢は、形を変えて、実現しつつあります。教え子たちと、一緒に、舞台に立てる日を夢見て、また、修行に出かけたいものです。今度は音を上げないつもりですが、気持ちはあっても、体がついてこないのでは、と心配です。

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

1957年大阪生まれ兵庫育ちの在日朝鮮人(朝鮮人は民族の総称)。
在日女性の集まり「ミリネ」(朝鮮人従軍慰安婦問題を考える会)代表。
「家族写真をめぐる私たちの歴史-在日朝鮮人、被差別部落、アイヌ、沖縄、外国人女性」責任編集。2016年、御茶の水書房刊。
小学校講師。
家族写真を使って、個人のルーツや歴史を知り合うワークを開催している。