公益財団法人 とよなか国際交流協会

なんぢゃ・カンヂャ・言わせてもらえば

第91回 『家族写真をめぐる私たちの歴史』初のトークイベント

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

6月中旬に出版した本、『家族写真をめぐる私たちの歴史』は、9月現在までの売り上げが千冊を突破しました。大手書店を回ると、女性問題や人権問題の棚に一冊だけ見つけたり、リクエストしないと出してくれなかったりとガッカリしていたのですが、友人や知人が宣伝してくれ、地元の教員をはじめ、大阪府外国人教育研究協議会に集う教員、授業に行かせてもらった学校など、たくさん購入してくださり本当にうれしいです。若い仲間からは、24人の一編一編がはじめて知ることばかりで、「在日」の友人のことを何も理解していなかったことに気が付いたという感想や、目の前にいる外国にルーツを持つ子どもや親たちの気持ちを受け止めることができそうだという、頼もしい感想も。
 「在日」の先輩からは、自分と同年の女性を本の中に二人見つけ、共通の経験を思い出し、ただの記録写真だと思っていた家族写真が故郷の親族に送る現況報告だったことにはじめて気が付いた。執筆者一人ひとりが「私こそ歴史の主人公」という気概を示していて胸がすく思いだった、という手紙が寄せられました。また、家族写真を撮らなかった家族の事情を綴ったものや、家族写真がほとんどないことに気が付いたという人がいたり、福島の地元で、戦争中にいた朝鮮人の記憶を祖父から初めて聞いたという人がいたりしました。そして、自分たちにもこんな本が作れるのではと、希望をもったという感想もあります。
 9月22日、神戸市新長田駅近くの神戸コリア教育文化センター・カフェ「ナドゥリ」で、出版後、初のブックトークが開催されました。2014年に設立以降、「長田在日大学」や「在日」の生活史に焦点を当てた写真展など、地域に根ざした活動や講座を開催し、多様な人たちが集い語り合う場が「ナドゥリ」です。代表理事の金信鏞さんは保護者会を結成し、95年には校外の公的施設で民族学級「オリニソダン(子どもの書堂)」を開設。2004年には神戸市で初めての校内民族学級が神戸市立蓮池小学校にでき、2010年には須磨区のだいち小学校にも設置されています。1990年頃、池田で保護者会を結成し、民族子ども会「ケグリの会」の活動を開始したときに、キム・シニョンさんと出会いました。
 定員30人を超える参加者が雨の中、集ってくれました。遠方から駆けつけてくれた人もいて、トークも盛り上がりました。シニョンさんの写真展のお話から、1937年創業の「平常冷麺」のお店の写真や、屑物や屑金物などを買い集める商売「よせや」の写真、北への帰還運動時に新潟港で写したチマ・チョゴリ姿の写真などを観ることができ、写真に写っていない事実に思いを巡らせました。
 今回のワークは写真が少なかったので、参加者全員で自分と朝鮮半島との関わりや「在日」との出会いなど、コメントを年表に貼りつけるという作業にしました。「在日」の仲間は、祖父母が日本に来た年代からはじまります。私もそうですが、自分の一族がいつ日本にきたのか、正確な資料がありません。祖父母の記憶が頼りですが、亡くなってしまったら、確かめることもできません。コメントを書きながら、もっと話を聞いておけば良かったと後悔する姿もありました。「高校の時に友人から『在日』だと告白され、衝撃を受けた」とか、「1992年に長田マダンと出会った」という、日本の人たちの活動のきっかけや、「父親が戦争中、ゴム靴工場で朝鮮語の通訳をしていた」「釜山が生まれ故郷」など、朝鮮半島との意外なつながりについてのお話も興味深かったです。
 うれしかったのは、交流会で「在日」の若い後輩たちと、本名を名乗ることについて、これからの民族教育のあり方、他の外国の人たちとの関係性などを語り合えたことです。本を読んだ人たちと、元気になれないこれからを悲観するのではなく、背筋を伸ばして生きることの大切さを確認していきたいです。

皇甫康子(ふぁんぼ・かんぢゃ)

1957年大阪生まれ兵庫育ちの在日朝鮮人(朝鮮人は民族の総称)。
在日女性の集まり「ミリネ」(朝鮮人従軍慰安婦問題を考える会)代表。
「家族写真をめぐる私たちの歴史-在日朝鮮人、被差別部落、アイヌ、沖縄、外国人女性」責任編集。2016年、御茶の水書房刊。
小学校講師。
家族写真を使って、個人のルーツや歴史を知り合うワークを開催している。